「直流電流を非接触で検知する」。その技術は、理論としては60年も前に確立していましたが、21世紀になっても、製品化されていませんでした。それは、難しかったというよりは、誰もつくろうとしなかっただけですが。

インタビュアー:では、豊光社は何故チャレンジしたのですか?

クランプ式微弱直流センサ「picsor」開発のきっかけは、アミューズメント業界のあるお客様からいただいた“機器で行われる不正防止に使えるセンサが欲しい”という打診でした。

“横行する不正をなんとか防ぎたいが、この業界は規制がとても厳しく、いったん完成した機器の改造等は認められない”。“ある信号が読み取れれば、不正防止ができるのだが、改造にあたらず、簡単に取り付けられる小型のセンサはできないものか”。そういうオファーでした。

回路の性能のベストバランスを、センスよく根気よく見つける

じつは、「直流電流を非接触で検知する」センサ開発を、誰もやらなかったのには理由がありました。それに使える部品がなかったのです。しかし、「picsor」の開発をはじめた2002(平成14)年頃から、半導体の高精度化、高集積化が進み、電子パーツの性能が格段に向上しました。

でも、それを使えば、すべてが上手くいったわけではありません。回路を構成する場合、往々にして起こる「こちらを立てれば、あちらが立たず」という状況のなかで、ちょうどよいバランスを見つけるのは至難の業でした。豊光社は、センスよく、ひたすら根気よくやり続けました。

そして、できました。
検出精度±0.1%、直線性0.01%以下の小型クランプ式DC電流センサ「picsor」
この精度は世界一の精度*1で、直流用のクランプ式センサとしては世界初*2。
この直流の技術をパルスに応用したのが、クランプ式微弱パルスセンサです。
*1:0-3mA、0-30mA、0-300mAレンジの場合  *2:2005年当時

基本技術にプラスした創意工夫は、「クランプ面の鏡面加工」

インタビュアー:なるほど、センスよく、ひたすら根気よく、ですか。

…誰も、やろうとしなかったはずですね。picsorは、測定したい電線をはさむ(クランプする)ことで電流の測定が可能(図1)となるのが特徴ですが、クランプすることで、測定精度が落ちてしまうことがあります。これを防ぐために、picsorはクランプ面に鏡面加工を施しています(写真1)。難しかったのは鏡面加工の精度。どこまで精度をあげればOKということではなく、できる限り高精度な鏡面加工をする。じつは、この接触面の磨き技術もpicsorの高性能の秘密なんです。

市場ゼロからのスタート。今では採用企業は200社を超える

インタビュアー:でも、誰もつくらなかったものには、需要もないのでは?

いえ、そんなことはありません。もちろん、市場ゼロからのスタートでしたが、いまでは200社を超える企業にご採用をいただくまでになっています。まだまだ市場開拓は充分ではありませんが…。
picsorが採用されている分野は、制御機器、漏電監視など。業界でいうと、鉄道業界でATC*3などの中で制御信号や電源電流などの監視として使用される実績が多く、近年は、最大需要電力(デマンド値)を抑える電気使用状況の監視である「デマンド監視システム」等ピックアップセンサとしての受注が(電力会社・ユーザー双方から)増えています。
*3:ATC(Automatic Train Control)鉄道における信号保安装置で自動列車制御装置のこと